ここに、数枚の紙をホッチキスで綴じただけの古くて薄い絵本があります。
ざらっと粗い手触りの紙にどっさり載ったインクの色合いと質感。
新品のピカピカすべすべしたのとは違う、どこかなにか「引っかかる」感じ。
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これらの絵本はいまのロシアがソ連と呼ばれていた時代に発行され、現地の子供たちに読まれながら様々な人の手をへて、今こうして京都にやってきたものです。
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18世紀 民衆版画ルボーク『ねずみがねこを葬った話』 |
その来歴を少し辿ってみると、ルーツは18世紀の民衆版画に行き当たるようですが、エポックだったのは、20世紀に入りロシア革命という時代の大きな転換点の周りで興った前衛的な芸術運動の大きなうねりのなかから生み出された数々の絵本たちでした。
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1904-06年 イワン・ビリービン『サルタン王物語・金鶏物語』 |
その後、第二次世界大戦を境にスターリン体制における統制下での状況を経て、20世紀半ばからソ連崩壊まで、めまぐるしく移り変わる時代とともにロシアの絵本はありました。
ここにある絵本たちの多くは、20世紀初頭~1920年頃のソ連黎明期ロシア・アヴァンギャルドの時代~戦中戦後のスターリン時代と、それぞれの時代にオリジナルが創り出され、以降の1960~80年代に改めて発行印刷されたものです。
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1925年 ウラジーミル・レーべジェフ『昨日と今日』 |
内容も色々で、芸術的意匠を凝らした装飾的な挿絵でおとぎ話の世界を表現したものもあれば、ソ連という新しい時代のアヴァンギャルドのデザイン、ロシアのフォークロア的な装飾模様と精霊や獣たちの豊饒なイメージ世界が描き出されている絵本などもあります。
画風やモチーフなどはさまざまではありますが、それぞれ単にこどもの読み物としてくくりきれないような、芸術性の高い表現が、これほどたくさんの画家たちによってなされてきたという、そのエネルギーの密度に打たれます。
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1935年 ユーリー・ヴァスネツォフ『さんびきのくま』 |
そして何よりもこうしたアート性の高い表現が、民衆のため・こどものための絵本というかたちを取りつつソ連時代独特の造本によって作られ続けていたことに、新しい時代の始まりに担い手たちが打ち立てたものの強さを想わずにいられません。
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1953年 エフゲーニー・ラチョフ『てぶくろ』 |
時は流れ、彼らがそこにかけた熱い創造の精神は、次第に人々の記憶から薄れていってしまうのかもしれません。しかし、彼らが紡ぎ出したこれらの絵本のかたちは、ある時代の精神の証として確かに存在し、時代を超えて受け継がれていくものと信じて。
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いまここに残された絵本を手にとってページをめくり眺める時、ふいにどこからかやってくるこの「引っかかる」感覚。
感じた時には既にこぼれてしまうのだけど、もう一度丹念に辿ってみたくなる。
あなたはどこにどう「引っかかる」のか、一冊一冊手にとって感じてみて欲しいのです。
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恵文社一乗寺店内 展示棚概観 |
■展示商品の挿絵画家
ユーリー・ヴァスネツォフ/エルショフ&エルショヴァ/キリル・オフチニコフ/タチャーナ・グルディーニナ/ウラジーミル・コナシェーヴィチ /スヴェトラーナ・コワリスカヤ/レオニード・シュワルツマン/ミハイル・スコベリェフ/タマーラ・ゼブロワ/オレグ・ゾートフ/エフゲー ニ・チャルーシン/エフゲーニー・チャルーシン/ニキータ・チャルーシン/ニコライ・ティルサ/レフ・トクマコフ/ゲオルギー・ナルブト/イ ワン・ビリービン/ブラートフ&ワシーリエフ/ウラジーミル・ペルツォフ/タチャーナ・マーヴリナ/リディア・マイオーロワ/マイ・ミトゥー リチ/ドミトリー・ミトローヒン/ヴェーラ・モロゾワ/エフゲーニー・ラチョフ/ウラジーミル・レーベジェフ/ベニアミン・ローシン
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ふぉりくろーる。× 恵文社一乗寺店 presents
『ロシア絵本のポエジーとエナジー』
期間:2013年5月1日Wed. - 2013年5月31日Fri.
時間:10-22時
場所:恵文社一乗寺店
〒606-8184 京都市左京区一乗寺払殿町10
tel. fax. 075-711-5919
http://www.keibunsha-books.com
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